八木素萌といえば『難経』の研究にその一生を捧げた人である。同時に日本鍼灸の将来を深く考えていたひとりでもある。五百年後の日本で過去にこんなすごい仕事をした人達がいたと言われるような、そんな仕事を一緒にやろう、と塾生に呼びかけていた。『素問』『霊枢』は勿論、各時代の代表的な本を次々と読破しながら、『難経』を究めてたどり着いたその業績は、間違いなく日本鍼灸界への遺産である。

八木は「経絡治療」における諸問題を解決し、鍼灸における「証」についての考察を重ね、対案としての新しい臨床システムを提唱した。そのシステムは、『難経』を始め、『素問』『霊枢』その他の古典研究に基づいた治療論である。そしてこれは、柳谷素霊が「古典に帰れ」と、つまり「古典の指示する治法を実地に応用することによって、その治効の有無を確定するのが最も科学的方法であり、本格的鍼灸道の進路でなければならぬ。」との言に沿うものであると確信している。

このたびの第46回日本伝統鍼灸学会学術大会での講演(「八木素萌師と『難経』の世界」)を機に、八木の業績を順次公開していきたいと思う。

八木の残した日本鍼灸への遺産、その真価を、是非皆様一人ひとりの目で、確認していただきたいと願ってやまない。

漢法苞徳会会長
鈴木福三朗